別人にプロポーズ?家と金をもらい華麗にサヨナラ

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別人にプロポーズ?家と金をもらい華麗にサヨナラ

GoodNovel new 完結

18歳のときから、私・桐生渚(きりゅう なぎさ)はずっと佐伯弘恭(さえき ひろやす)と一緒にいた。 美容室のアシスタントから彼の会社の経理部長になり、狭いアパートから彼が買った一軒家へ移り住んだ。 でも、彼が結婚の話をすることは一度もなかった。まだその時期じゃないんだろう、とずっと思っていた。 けれど、会社に新しく入った受付の女性・成瀬寧々(なるせ ねね)と出会ってわずか3ヶ月。弘恭は彼女の誕生日にプロポーズした。 その話は、見かねた弘恭の友達がこっそり教えてくれたものだった。 10年という月日も、たったの3ヶ月には勝てないんだ。 送られてきた位置情報を見つめる私の手は、スマホを落としそうになるほど震えていた。 高級ホテル内レストランのVIP個室に駆けつけると、中は大盛り上がりだった。 ドアを開けると、弘恭が寧々と抱き合っている姿が真っ先に目に入った。 私はシャンパングラスを手に取り、彼の前へと歩み寄った。 「おめでとう」 彼は反射的に「ありがとう」と返した。 だが、私の顔をはっきりと見た瞬間、彼はその場で凍りついた。 「なんで、お前がここに?」

チャプター (1)

第1章

18歳のときから、私・桐生渚(きりゅう なぎさ)はずっと佐伯弘恭(さえき ひろやす)と一緒にいた。 美容室のアシスタントから彼の会社の経理部長になり、狭いアパートから彼が買った一軒家へ移り住んだ。 でも、彼が結婚の話をすることは一度もなかった。まだその時期じゃないんだろう、とずっと思っていた。 けれど、会社に新しく入った受付の女性・成瀬寧々(なるせ ねね)と出会ってわずか3ヶ月。弘恭は彼女の誕生日にプロポーズした。 その話は、見かねた弘恭の友達がこっそり教えてくれたものだった。 10年という月日も、たったの3ヶ月には勝てないんだ。 送られてきた位置情報を見つめる私の手は、スマホを落としそうになるほど震えていた。 高級ホテル内レストランのVIP個室に駆けつけると、中は大盛り上がりだった。 ドアを開けると、弘恭が寧々と抱き合っている姿が真っ先に目に入った。 私はシャンパングラスを手に取り、彼の前へと歩み寄った。 「おめでとう」 彼は反射的に「ありがとう」と返した。 だが、私の顔をはっきりと見た瞬間、彼はその場で凍りついた。 「なんで、お前がここに?」 第1話 私は彼を見ず、手元のグラスを軽く揺らした。 「プロポーズなんて大事なこと、どうして私に教えてくれなかったの?」 弘恭は顔色を変え、私の手を掴もうと伸ばしてきた。 「渚、先に帰っててくれ。後でちゃんと説明するから」 私はその手をかわし、静かな声で言った。 「説明なんていらないわ。ただ聞いてみただけ」 寧々が立ち上がり、唇を噛んで私を見つめた。 「桐生さん、ごめんなさい。弘恭さんに言わないでって頼んだのは私なんです」 彼女の声はか弱く、泣きそうに震えていた。 「会社で嫌がらせをされるのが怖くて、陰口を言われるのも嫌だったんです」 私はクスッと笑った。 「安心して。私はそんなことしないわ」 私は彼女の目をまっすぐ見つめ、静かに言葉を返した。 「でも、浮気相手が陰口を言われるのは当然じゃない?そう思わない?」 彼女は顔を青ざめさせ、ぽろぽろと涙をこぼした。 弘恭はすぐに彼女を後ろにかばい、眉をひそめて私を睨んだ。 「渚、もういい加減にしろ。話なら帰ってから聞く」 まるで壊れやすい宝物でも守るように、弘恭は寧々をかばっていた。 彼の顔を見つめながら、ふと見知らない他人のように思えた。 10年。一人の人間の本性を見抜くのに、10年もかかってしまった。 「いいわ、どうぞ続けて」 グラスをテーブルに置き、私は踵を返して個室のドアへと向かった。 背後から寧々のすすり泣く声と、彼女を優しくなだめる弘恭の声が聞こえてくる。 私は一度も振り返らなかった。 ホテルを出ると、夜風が吹き抜けた。 私は道端に立ち、タクシーを拾って家へ向かった。 車窓を流れるネオンを眺めながら、私の頭の中には昨日の出来事がよみがえっていた。 昨日だって、鏡の前で新しく買ったワンピースを合わせては、今週末にでも弘恭に結婚の話を切り出してみようかと考えていたくらいなのに。 付き合って10年。そろそろ落ち着く頃だと思っていた。 今思えば、本当に滑稽だ。 18歳のとき、私は弘恭の女になった。 その年、妹の腎臓病が発覚した。実家が身代を潰す勢いで金をかき集めても、とても手術費用には届かない。私は高校を中退し、美容室の見習いとしてシャンプー台に立ち続けた。 店に通っていた弘恭が、水仕事で赤く荒れた私の手を見て、ふと声をかけてくれたのだ。「うちの会社で働いてみないか。一から全部教えてやるよ」 彼は手取り足取り、決算書の読み方やビジネス書類の作り方、そして大人としての世間の渡り方まで、何から何まで教えてくれた。 狭いアパートから一軒家へ、美容室のアシスタントから経理部長へ。私は10年の歳月をかけた。 誰もが私をシンデレラだと羨み、私自身も信じかけていた。 けれど童話のシンデレラなら、王子様がプロポーズしてくれる。 私の王子様は、別の女の前に跪いていた。 息を深く吸い込んで、車の窓を下げた。 吹き込んできた風で目が痛んだが、涙はこぼさなかった。 これから先、私と弘恭は、もう何の関係もない。 家に着いた時には、もう11時を回っていた。 部屋の明かりは点けず、玄関の小さな灯りだけを残して、私はソファに腰を下ろした。 この一軒家に住んで5年。隅々まで私が片付けてきた。 ソファを選んだのも、カーテンのサイズを測ったのも私。キッチンの食器だって、ひとつひとつ私が揃えたものだ。 もちろん、登記の書類に書かれているのは、弘恭の名前だった。 急にどっと疲れが押し寄せ、ソファにもたれて目を閉じた。 頭の中はぐちゃぐちゃで、この10年間の思い出ばかりが浮かんでは消えた。 第2話 弘恭が付き合いで深酒をして帰ってきた夜は、水と二日酔いの薬を用意して、背中をさすりながら飲ませてあげた。 彼の誕生日には、1ヶ月前からプレゼントを用意した。 仕事が忙しくて結婚はまだ無理だと言われても、分かった、待つよと答えていた。 そうして待ち続けた結果が、今日だった。 深夜の2時、鍵の開く音がした。 弘恭が帰ってきた。 目を開けると、彼が靴を脱いでリビングに入ってくるところだった。 リビングの電気は消していた。でも、玄関のわずかな明かりで、彼の首筋にある生々しい赤い痕が見えてしまった。 キスマークだ。 彼は昔から、体裁が悪いからと、人目につく場所にキスマークを残させるのを嫌がっていた。 今日はよっぽど嬉しかったのだろう。 ソファーに座っている私に気づき、彼は足を止めた。 いつもみたいに抱きしめてくれることも、遅くなった理由を話すこともなかった。 彼は私から一番離れた一人掛けのソファーに腰を下ろし、しばらく黙り込んだ。 「渚」 彼の声は、少し嗄れていた。 「俺たち、一緒にいすぎたんだ」 私は何も言わず、彼を見つめた。 「もう、女として見られないんだ。これじゃ結婚なんて踏み切れない」 彼はうつむいて、言葉を選んでいるようだった。 「寧々は違う。彼女といると、すごく結婚したくなるし、落ち着きたいと思えるんだ」 寧々。あの受付の女性のことだ。 私は心の中で、その名前をそっと繰り返した。 「この件は俺が悪い。埋め合わせはするから」 ようやく彼が顔を上げた。 「この家はお前に譲るし、手切れ金として1億円も渡す。それだけあれば十分暮らせるだろ」 彼は一呼吸置いた。 「会社の方は、自分で退職届を出してくれ。寧々が社内でお前を見たら、きっと嫌な思いをするから」 それを聞き終えて、私は小さく頷いた。 「分かった」 彼が一瞬ぽかんとした。まさかこんなにあっさり承諾するとは思わなかったのだろう。 「いいのか?」 「いいよ」 私は立ち上がり、彼を見つめた。 「今すぐ出て行って」 彼は眉をひそめた。 「今から?」 「そう、今夜のうちに」 私の声は淡々としていた。 「この家を私にくれるなら、今すぐ荷物をまとめて出て行って」 彼は数秒間私を見つめ、最後には頷いた。 「分かった。上の部屋から荷物をまとめてくる」 彼が2階へ上がっていっても、私はその場から動かなかった。 やがて、2階から荷物をひっくり返してまとめる音が響いてきた。 ベランダに出て夜の景色を眺めると、胸の中がぽっかりと空っぽになった。 悲しいというより、中身をごっそり抜き取られてしまった感覚だった。 夜風に吹かれると、体ごとふわふわと浮いてしまいそうだった。 30分ほど経って、弘恭が二つのスーツケースを引いて降りてきた。 彼は玄関まで行くと、私を振り返り、何かを言いかけたが、結局は言葉を飲み込んだ。 私は彼を見なかった。 ドアが閉まり、車のエンジン音が次第に遠ざかっていった。 誰もいない静まり返ったリビングで、私はふと笑った。 10年という歳月が、たったこれだけの荷物に詰め込まれて、持ち去られてしまった。 実に手際がいい。 第3話 翌朝、私はいつものように出社した。 片付けなければいけない荷物があったからだ。 会社の正面玄関を入ると、受付の向こうに寧々が座っているのが見えた。 白いワンピースを着て、髪をお団子にまとめた彼女は、見るからに若々しく清楚な印象だった。 彼女は私に気づくと、わざとらしく左手を持ち上げた。 薬指につけたダイヤモンドの指輪が、照明の下で眩しく輝いていた。 私が顔色も変えずに奥へ進もうとすると、彼女は席から回り込んできて、私の前に立ちふさがった。 「桐生さん、出社されたんですね」 彼女は笑いながら手を掲げ、私の目の前でひらひらと揺らした。 「綺麗でしょう?弘恭さんが選んでくれたんです。1カラットなんですって」 彼女は首を傾げて私を見つめ、甘ったるい声で言った。 「弘恭さんと10年も一緒にいて、ダイヤモンドの指輪なんて買ってもらったことありましたっけ?」 私は視線を落とし、その指輪をちらりと見た。 「ダイヤモンドの指輪なら、何十個も持ってるわよ」 私はふっと笑った。 「どれもそれより大きいけれど、服に合わせて着けてるだけ。自慢するほどのものでもないしね」 寧々の顔が引きつった。 私は彼女を横目に通り過ぎ、自分のデスクへ直行した。 デスクの引き出しを開け、私物を片付け始めた。 持っていくものなんて、たいしてない。私物は少なかった。 私はそれらをダンボール箱に詰めていく。 片付けていると、寧々がまたついてきて、私の横から覗き込んできた。 「それ、会社の備品ですよね?勝手に持って帰っちゃダメですよ」 彼女はダンボール箱の中のファイルを指さした。 私はそれを手に取り、中を開いて見せてやった。 「これは私の仕事のノートよ。私物だわ」 彼女は口元を歪めて、不満をあらわにした。 私は片付けを続け、ダンボール箱からいくつかの物を取り出してデスクの上に置いた。 「あなたの言う通り、これらは確かに持って帰る必要はないわね」 私は彼女に目を向けた。 「ここに残したら片付けが面倒だろうと思って、ついでに捨ててあげようと思っただけよ」 彼女の顔色が変わった。 「なんですって?」 「だから、こんな役に立たないもの、ついでに捨ててやろうと思ったのよ」 私はそれらの物を彼女の目の前に押しやった。 「そんなに気になるなら、代わりに捨てておいてくれる?」 彼女は悔しそうに歯を食いしばった。何か言い返そうとした時、ドアの方から足音が聞こえてきた。 弘恭が入ってきた。 ダンボール箱を抱える私と、顔色の悪い寧々を見て、彼は眉をひそめた。 「寧々、もう下がってくれ」 寧々は口を開きかけ、あからさまに嫌そうな顔をしたが、弘恭の真剣な表情を見て、しぶしぶ立ち去った。 去り際、彼女は私をキッと激しく睨みつけた。 弘恭が歩み寄り、私の手からダンボール箱を受け取った。 「手伝うよ」 私は断りもせず、デスクに寄りかかって彼の手元を眺めていた。 彼がもう一つの引き出しを開けると、そこにはファイルが綺麗に積み重ねられていた。 それを取り出してパラパラとめくっていた彼が、ふと手を止めた。 中に写真が1枚挟まっていた。付き合い始めた年に撮ったものだ。 写真の中の私は18歳で、ポニーテールにして、カメラに向かって無邪気に笑っていた。 彼はその写真をじっと見つめていた。 「渚」 彼の声は低く沈んでいた。 「昔はお前のことが好きだった。本当に好きだったんだ」 私は黙って聞いていた。 「俺たち、結婚するんだと思ってた」 彼は写真をダンボール箱の中に戻した。 「でも、寧々と出会って、気づいたんだ……」 彼は言葉を詰まらせ、それ以上は言わなかった。 「何に気づいたの?」 私は彼の代わりに言葉を継いだ。 「本当に欲しかったのは私じゃなくて、彼女だったってことに?」 彼は黙り込み、それを肯定した。 私はダンボール箱を抱え上げた。 「弘恭、別に説明なんていらないわ」 私は彼を見つめた。心は、今までにないほど穏やかだった。 「だって、私ももうあなたのこと、好きじゃないもの」

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