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永遠の愛を君に
今日は颯(はやて)がSNSに投稿すると言った日だ。 私は彼と人目を忍ぶ恋を5年も続け、これでやっと堂々と恋愛できるようになる。 私はそれが嬉しくて、徹夜で私たちのツーショット写真を編集し、5分間の短い動画にまとめた。 そして彼の誕生日が来た瞬間、その動画をSNSにアップした。 しかし、ものの一秒で誰かが私のアカウントにログインし、その動画は消えてなくなった。 それと同時に、颯からメッセージが送られてきた。 【莉緒(りお)、君の親友が失恋したんだ。君がアップした動画を見たらまた悲しませるだろう。いい子だからさ、もうちょっと待ってからまたアップしよう】 すると藤野芽衣(ふじの めい)からもメッセージが届いた。 「彼のこと、何とかしてよ。さっきバーに到着したばかりなのに、突然彼が来て私を車に乗せたのよ、本当にあきれた!」 二人のメッセージが立て続けに送られてきた。 それは私たちが旅行に行った時と同じで、あの二人が前を歩き、私が後からついて行くようだった。 今回、SNSに私と颯が実は付き合っていたことをアップして、周囲に知らせるのは、彼にあげた最後のチャンスだった。 でも、彼にその気がないというのなら、もういい。
チャプター (1)
第1章
今日は颯(はやて)がSNSに投稿すると言った日だ。
私は彼と人目を忍ぶ恋を5年も続け、これでやっと堂々と恋愛できるようになる。
私はそれが嬉しくて、徹夜で私たちのツーショット写真を編集し、5分間の短い動画にまとめた。
そして彼の誕生日が来た瞬間、その動画をSNSにアップした。
しかし、ものの一秒で誰かが私のアカウントにログインし、その動画は消えてなくなった。
それと同時に、颯からメッセージが送られてきた。
【莉緒(りお)、君の親友が失恋したんだ。君がアップした動画を見たらまた悲しませるだろう。いい子だからさ、もうちょっと待ってからまたアップしよう】
すると藤野芽衣(ふじの めい)からもメッセージが届いた。
「彼のこと、何とかしてよ。さっきバーに到着したばかりなのに、突然彼が来て私を車に乗せたのよ、本当にあきれた!」
二人のメッセージが立て続けに送られてきた。
それは私たちが旅行に行った時と同じで、あの二人が前を歩き、私が後からついて行くようだった。
今回、SNSに私と颯が実は付き合っていたことをアップして、周囲に知らせるのは、彼にあげた最後のチャンスだった。
でも、彼にその気がないというのなら、もういい。
第1話
私は何度も動画を見かえした。一つ一つの写真をズームし、以前颯が私を愛してくれていた時の様子を見つめた。
その時、玄関のドアが開いたと思うと、芽衣のカツカツというヒールの音が響いた。
颯はいつものように屈んで彼女にピンクのウサギ耳がついた可愛らしいルームシューズをとって渡した。それは颯が彼女に買ってあげた芽衣専用だ。
芽衣は靴を履きかえようと彼の肩を支えにして、足をあげた。その時足が彼の腕に触れ、二人の姿勢はかなり曖昧な雰囲気を漂わせていた。
二人の様子を見ていると、ふいに以前のことが蘇ってきた。この間、出かけていた時に靴紐がほどけてしまい、私は甘えた声で彼に結んでと頼んだ。
彼は振り返って、私をちらりと見た。
「莉緒、お前さ、もう大人なんだから、そんな子供みたいなことを言うなよ」
その言葉に私は恥ずかしくて顔が赤くなり、急いで屈んで靴紐を結び直すと、すぐに彼の後を追いかけた。
でもあれは、私が子供っぽいと嫌っていたわけではなく、彼が大事に可愛がっていたのは私ではなかったからか。
この時、芽衣が今ようやく私に気付いたかのように、こちらを見てきた。
「あら、莉緒、家にいたんだね」
芽衣はソファに座り、足を組んでローテーブルの上に置くと、すぐ傍にあったクッションをつかんだ。そのあまりに自然な動作に、ここはまるで彼女の家のようだと思った。
ただ、この家にある全てのものは、私が颯と気持ちよく暮らせるように、吟味して選び抜いたものばかりだ。
颯は薬箱を持って来ると、これはまた慣れた様子で芽衣の前に跪き、消毒液を綿棒に浸して彼女に塗ってあげた。
芽衣は傷口にしみたのか、痛そうに眉をひそめて私のほうを向いた。
「ねえ、莉緒。あなたってば颯みたいな彼氏によく耐えられるわよね。こんなかすり傷にも薬を塗るのよ。私がお酒を飲むのだってうるさく……」
「あら、その人が私の彼氏だってこと、あなた知ってたんだ」
私は芽衣の言葉を遮ると、顔をあげて彼女に微笑んだ。
その言葉に芽衣は驚いていた。颯の手もその瞬間ピタリと動きを止めた。
私は二人には気づかれないところで、ぎゅっと拳を握りしめた。あまりに力を込めていたため、爪が手のひらに食い込み、その痛みでどうにか冷静さを保っていられた。
芽衣は不満そうな目つきで私を見てきた。
「ちょっと莉緒、まさか私が颯に気があるんじゃないかとか思ってる?あなたが颯と付き合っていることを今は周りに教えられないって言ったから、私がこうやってしょっちゅう来て、事実を隠してあげてるんじゃないの」
そうだ。それは、もし早い段階で私たちが付き合っていることを周りが知り、結局別れるようなことになったら、私の名誉に傷をつけるとかなんとか颯が言って、5年ものあいだ秘密にしていたのだ。
颯は慎重な手つきで芽衣に絆創膏を貼ってあげると、立ち上がり、責めるような眼差しを私に向けてきた。
「莉緒、でたらめなことを考えるにしても、度を超しているぞ。お前のためじゃなかったら、俺が芽衣の行動にいちいち気を配ってるのは何のためだよ?」
彼がそう言い終わると、芽衣が抱いていたクッションを彼に投げつけた。
「誰がそうしてくれって頼んだのよ!」
そう言うと、彼女は立ち上がろうとしたが、颯が彼女の体を押さえた。
「じっと座ってるんだ。さっき薬を塗ったばかりなんだから」
二人のまるで当たり前のようなイチャつきっぷりに、ぶちまけたい気持ちが、喉まで来てまた引っ込んでしまった。
今日晴れて彼との交際を周りに公表できたお祝いとして鍋を作ろうと思っていた。その材料がキッチンに置かれている。
その食材はほとんどが私の好きなものばかりだ。しかしこうなった今、それは別れの最後の晩餐とすることにしよう。
鍋がぐつぐつと湯気をあげている。芽衣は私の隣、そして颯は私の向かい側に座った。
辛い物好きな芽衣は、自分の小皿に唐辛子を大さじ一杯入れた。それを見た颯が眉をひそめて彼女の手からそれを取り上げた。
そして私のタレが入った小皿と取り替えて、それを芽衣の前に置いた。
「怪我したんだから、辛い物は避けるべきだ。早く良くなりたくないのか?」
芽衣は辛い物が大好きだが、私は大っ嫌いだ。颯も以前からそれをよく知っている。
昔から、私が夜中にお腹を空かせた時、彼は眠たそうな目をしながらもデリバリーを注文する時には、しっかりと辛いものではないか確認してくれていた。
今、私は目の前に置かれた唐辛子入りの小皿を見つめ、突然、この5年に執着する必要もないように感じた。
第2話
私は箸を置くと、立ち上がってドアのほうへ歩いていった。
颯が私を追いかけてきて、強い力で私の腕を引っ張った。
「芽衣は失恋したばかりなんだぞ。お前は彼女の親友なんだから、少しは慰めてやるべきだろ。さっきから今までずっとムスっとしてさ、一体何を考えてるんだよ?」
私は、今目の前にいる5年の間、大好きで愛していた男を見つめた。
「ねえ、颯」
私は彼に言った。
「あなたって、毎回見事に私の期待を裏切らないわよね」
私の言葉が理解できないらしく、彼は眉間に皺を寄せていた。
するとこの時、突然リビングから「キャアッ!」という叫び声が聞こえてきた。
その声が聞こえた瞬間に、彼は私に背を向けて、芽衣のもとへ急いだ。
私は視線を戻し、彼らに背を向けてここを去った。
少し前に会社から、私に高見原市にある支社へ異動してもらいたいと通知が来ていたが、その時は少し考えさせてほしいと断わっていた。
それは、颯から遠距離恋愛はしたくない、毎日私と一緒にいたいと言われたからだ。
しかし今、彼と暮らした家にあるあのピンク色のルームシューズに、さっきの唐辛子が入った小皿を頭に思い浮かべた。
私はきっとかなり前から二人の中で「はみ出し者」になっていたのだろう。それに今私はようやく気付いただけだ。
私は颯と付き合い始めるとすぐに親友の芽衣を紹介した。
あの頃、芽衣にはまだ彼氏がいて、颯と芽衣はお互いの立場をはっきりと分けていた。
芽衣が彼氏と別れては仲直りを繰り返しているうちに、全てが私の知らないところで、徐々に変わっていたのだ。
芽衣は夜中に酔っぱらって私に電話をかけてきた。私は颯と一緒に彼女を迎えに行ってあげた。
芽衣が車の中で吐いてしまい、それを嫌った颯は車を中古で売ってしまった。
芽衣が彼氏と別れると騒ぎ始めて私に相談しに来るようになってから、颯はとてもうんざりしていた。彼は何回も二人っきりの世界になれないと愚痴をこぼしていた。
それがだんだん文句を言う数は減っていき、芽衣が酒に酔っていても嫌悪しなくなっていった。
芽衣が酔っぱらうと、颯が真っ先にふらつく彼女の体を支えてあげて、コンビニに酔い覚ましのドリンクを買いに行き、辛抱強く彼女の背中をさすってあげた。
私たちが遊びに出かけた時には、彼はいつも芽衣を連れていけば、私たちが付き合っていることを隠すことができるから、と言っていた。
あの二人が肩を並べて前を歩き、私はその後ろから芽衣の鞄と上着を持ってついていった。
颯が芽衣の写真を撮ると、写真写りが悪いと言って、芽衣は彼に手取り足取り長い時間をかけて写真の撮り方のコツを教えてやっていた。
二人は顔を寄せあい、芽衣の髪の毛が風に吹かれて颯の横顔を撫でると、彼は周りには気づかれないくらい微かに口角を上げていた。
その瞬間、私はとても馬鹿馬鹿しく思った。
私は持っていた芽衣の鞄と上着を彼らに押しつけて、急ぎ足でホテルに戻った。
その夜、私は颯と大喧嘩になった。
「莉緒、お前、考えすぎなんだよ。ただ芽衣ちゃんを連れていれば俺たちの関係が誤魔化せるだろう。そのために来てもらってるんだぞ。彼女は何も悪くない」
私は彼のその言葉に呼吸もうまくできないほどに大泣きした。
「それなら私たちの関係を隠す必要なんてないじゃない!もう付き合って5年よ。どうしてあなたは私にこんなふうにするのよ。なんだかあなたと付き合うのはこそこそしているみたいで、私、とってもつらいのよ。分からないの?」
颯は長い間私をじっと見つめ、近づいてぎゅっと抱きしめてきた。
「分かった。そこまで言うならSNSで付き合ってることをみんなに知らせよう」
その結果、芽衣が完全に彼氏と別れたあの日、彼が私のアカウントにログインして、私が寝ずに苦労して作ったあの短い動画を消してしまった。
彼は私たちの間に微かに残っていた愛を消してしまったのだ。
私は涙を拭い、スマホを開いて電話をかけた。
「決めました。私、高見原に行きます」
私が家に帰った時には空はすっかり暗くなっていた。鍋は片付けられずにそのまま放置され、油が固まっていた。颯と芽衣はいなかった。
私はソファに座り、SNSのログインパスワードを変更しようと思っていたが、開いた瞬間、ある動画が目に飛び込んできた。
それは颯と芽衣が一緒に作った動画だった。
その中には編集された写真があった。上の写真は芽衣が颯の胸に寄りかかっているもので、下には胎児のエコー写真がくっついていた。
そして動画のBGMは最近恋人たちの間で流行っている「永遠の愛を君に」という曲だった。
私が編集したあの5分動画で使った曲と同じだ。
私は無意識にスマホを強く握りしめた。喉の奥が締め付けられるように苦しくなってくる。
ポタリと一粒の涙がスマホの画面に落ちた瞬間、颯から電話がかかってきた。
「莉緒、もしかしてインスタ見た?説明するよ、あれはさ……」
「その必要はないわ」
私は何も考えず、声が勝手に口から出てきた。
「これから先、一切説明なんて必要ないから。颯、別れましょ」
そう言うと一方的に電話を切り、私は高見原市へ行くための飛行機チケットを予約した。
第3話
翌日会社に行くと、みんながまるで異様な物でも見るかのように私を見てきた。
この日一日中、私が来ると、みんなさっきまでおしゃべりしていたのに、暗黙の了解のようにピタリと話を止め、せかせかと仕事をしているふりをし始めた。
退勤時間が迫っても、こそこそと噂をする声はやむことがなかった。
私はもう耐えられなくなって、振り返った。
「何か私に言いたいことがあるなら、言ってよ。そうやって裏でこそこそと話してないでさ」
誰も私に返事してくれなかったが、ただ一人、小声でつぶやく人がいた。
「ネットを騒がせてるってのに、何を知らないふりしてんだか」
その言葉を聞いて、私はすぐにスマホを開いた。ネットで今関心を集めているゴシップが真っ先に目に入った。
【私を愛してくれながら、別の人とも思い出作り】
そこにあったのは、まず颯と芽衣のあの動画だ。それと、「リオの小さな世界」という名称の私の裏垢も。
その裏垢は私が昔、颯とのささいな日々を綴ろうと思って作ったものだ。しかし、颯から言われて彼の顔を載せたことはない。
それでもネット民たちは、その写真から、まるで粗探しでもするかのように細かいところに目をつけて、私の名前、仕事、住所まで特定していたのだ。
それを見た瞬間、私は血の気が引き、指先が氷のように冷たくなった。
そして最後に私は気がついた。
芽衣も同じくインスタのアカウントを持っていて、私が裏垢を作ったのと同時期に作ったようだ。
私はもうそれを更新していなかったが、彼女はまだ続けていて、最新の内容はあのエコー写真だった。
ネット民たちは、芽衣が可哀想だと心を痛め、私は浮気相手だと責めた。
そして誰かが私のメインでやっているインスタまで探し出し、私と芽衣が親友だということまでばれていた。
私のSNSは完全に炎上状態で、ダイレクトメッセージがひっきりなしに届いた。
家に着くと、大家が玄関の前で待っていた。
彼女はイライラした様子で私を見ていた。
「あなた、さっさと出ていってもらえるかしら。あなたなんかに貸したくないのよ。敷金礼金は後から差し引いた金額をそっちに振り込むから、早く出ていって!」
「どうし……」
「どうしてなのか、よく聞けるわね?」
大家は私の言葉を遮り、声を荒げた。
「あんたの炎上よ。私の商売にかなり影響が出てるんだからね!賃貸情報を出してるサイトから多くの人が私に連絡してきて、どうして親友の男を奪おうとしているクソ女に部屋を貸してるんだって罵られたのよ!」
「違います!」
「事実がどうであれ関係ないのよ。私に影響が出てるんだから。実際、他に私が部屋を貸している人からも、退去したいって言われてるのよ」
大家はかなり苛立って荒い口調になっていた。
「私は普通に暮らしてる人間なの。うちにはまだお金のかかる子供がいるんだから。あなたはいいじゃない、引っ越せばいいだけなんだから」
私はその場に立ち尽くし、激しく降りしきる雨を見つめてうつむいた。
「分かりました」
荷物を片付けている最中、颯の服がなくなっていることに気付いた。
私はまた集中して、引き続き自分の服をまとめた。どのみち遅かれ早かれここを去るつもりだった。
私は玄関まで行き、振り返って最後に一目、颯と5年間一緒に過ごした部屋を見つめた。
ベッドサイドのライトに、ベッドのマットまで一つ一つ私がじっくり選んでレイアウトしたものだ。
あの頃の颯は私を抱きしめて、期待に満ちた声で話してくれた。
「莉緒、俺、一生懸命仕事して、この部屋を借りるんじゃなく、買って正真正銘二人の家にするよ」
そしてその結末は……
彼も私もこの部屋から消えた。
私はスーツケース二つ引き、大雨の中、ホテルを三つも訪ねてやっと空き部屋があるホテルを見つけた。
水滴がぽたぽたと髪を伝って床に落ち、小さな水たまりを作った。
私はベッドに腰かけ、スマホを握りしめた。全身がガタガタと震える。
その時、スマホが突然振動した。人事部からの電話だ。
「村瀬さん、あなた、最近ネットでかなり炎上してるでしょう。世論もうちの会社に悪い影響が出るほどなんです。上と話してあなたは停職処分になりました。高見原のほうは行かなくていいので、知らせを待ってください」
私がそれに返事をするまえに、向こうは電話を切ってしまった。
私は呆然と床を見つめた。暫く経って颯に電話をかけた。
電話越しに、病院で患者の名前を呼ぶ看護師の声が聞こえてきた。
「やっと俺が恋しくなったのか?」
颯は軽蔑するように笑い、話し始めた。
「あの日、お前が腹立てて別れようって言ったのは、聞かなかったことにしてもいいぞ。だけど、次はないからな」
私はスマホを握る指先に力が入り、喉の奥のほうが締め付けられるような感じがした。
「ネットの炎上、ちゃんとみんなに説明して抑え込んでよ」
「は?」
颯は明らかに呆気にとられていた。
「莉緒、俺と仲直りするために電話してきたんじゃないのか?」
「あなたと仲直りする?」
私は鼻で冷たく笑った。
「この5年間、私との関係はしっかり周りには秘密にしといて、他の女とは子供ができたってSNSに堂々とアップしたわよね。そして今、私は知らない間に浮気相手のクソ女になってしまっているわ。
颯、あなたさっき私が仲直りのために電話をかけたって言ったわよね。その言葉、滑稽だと思わない?」
彼は暫くの間沈黙していた。
そしてその沈黙は芽衣の声で打ち破られた。
「颯、ねえ、早く。私の検査の番よ」
「ああ、分かった。今行く」
颯は芽衣に返事をすると、口調を早くしてこう言った。
「俺は芽衣に付き添って妊婦健診に行くから、こっちの用が済んだらお前とまた話すよ。怒らずにおとなしくしてるんだぞ」
第4話
電話は切られ、ただ、ツーツーという耳障りな機械音だけが響いた。
芽衣のXとインスタには同時に新しい写真がアップされた。
颯は優しさが溢れる瞳で、芽衣のお腹に手を当てている。
その写真と一緒に【パパとママが愛し合っているからこそあなたがここにいるのよ】と書かれていた。
私はベッドに崩れるように倒れ込み、涙が頬を流れシーツを濡らした。
私が目を覚ました時には、すでに翌日の昼になっていた。
会社からまた電話がかかってきて、芽衣が会社で騒ぎ、かなり悪影響が出ているから、今すぐに解決しに来いと言った。
私は目をこすり起き上がると、昨日雨に濡れた服も着替えることなく、急いでホテルの部屋を出た。
会社に到着すると、芽衣が私の席に座り、同僚たちに囲まれていた。
「ねえ、赤ちゃん、何か月?」
「私クッション持ってるよ。それに座ったほうが気持ち良いと思う」
「芽衣さんって本当にお人好しだわ。親友に裏切られたっていうのに、それでもちゃんと彼女と話したいなんて」
私に気付いた社員が声をひそめて話していた。
「ねえ、村瀬さんが来たよ」
彼女たちが芽衣の周りから離れると、芽衣が腰を支えながらゆっくりと立ち上がり、私の目の前にやって来た。
「莉緒、あなたときちんと話したいの」
この時の私は頭痛がひどかった。きっと昨夜雨に濡れてそのまま寝てしまったせいだろう。
私が顔をあげると、同僚たちはみんな軽蔑する目で私を見ていた。その中にはまるで私が芽衣に何かするんじゃないかと警戒した様子で、彼女を守るように囲んでいる人もいた。
この時、窓から風が吹いてきて、私は身震いし心も完全に冷え切ってしまった。
芽衣が近寄り私の手をとると、嗚咽まじりにこう言った。
「莉緒、私たち長い付き合いじゃない、お願い、きちんと話し合おう。ね?」
この言葉はかなり曖昧だ。事情を知らない人が聞けば、親友に裏切られたのに、まだ友情を取り戻したいと言っているように聞こえる。
こめかみあたりがピクピクと跳ねた。私は眉をひそめて彼女に触れられないように手をあげて避けた。
しかし、芽衣はまるで大きな力で押されたかのように、そのまま後ろに倒れ込んだ。
周りは驚き、叫び声をあげて、慌てて芽衣を起き上がらせた。
芽衣はしっかりとお腹を押さえて、目を真っ赤にさせた。
「莉緒、私たちには誤解があるんだよ。だけど、私、今お腹に赤ちゃんがいるのよ。どうして私を押すの……」
以前、私と仲が良かった同僚が私に飛びかかり、私の頬を力いっぱい叩いた。
「人の彼氏を奪おうとしたうえに、手まで出すなんて。なんであんたみたいな人間と仕事してたんだろ、最悪!」
彼女は怒りに燃える瞳で私を睨みつけていた。3ヵ月前、彼女と元夫の離婚裁判のために、私は徹夜して書類整理や証拠を集めた。気晴らしさせてあげようと酒に付き合い、裁判にかかる費用も私が彼女のために出してあげた。彼女はそのことをすっかり忘れてしまっているのか。
彼女が私を叩くと、他の同僚まで次々と私に飛びかかってきた。
私はそんな彼女たちを見つめ、ただ頭が真っ白になった。
この時、後ろから颯の声が響いた。
「お前ら、何やってんだ!」
振り返ると、彼が私のほうへ向かって走ってくるのが見えた。
そしてそのまま私を素通りし、まっすぐに芽衣のほうへ急いだ。
彼は彼女を懐に抱いて、優しい声で慰めていた。
「大丈夫か。どこか怪我は?」
この時、ペンスタンドが私に向って勢いよく飛んできて、ちょうど私の目に当たった。
あまりの痛みに私はよろけて床に倒れた。
颯は複雑な目つきで私のほうを見ていた。
最後に私は芽衣と一緒に病院に連れていかれた。
芽衣は検査に行った。
颯は私の前に立ち、呆れた声を出した。
「莉緒、今回のことは全部原因があるんだよ。これは芽衣が……」
「すみません、ご家族の方は?」
看護師が部屋から顔を出した。
颯は真っ先に答えた。
「俺です」
診察室の入り口で、彼は私に振り返った。
「莉緒、検査が終わったらどういうことなのか全部説明するよ。きっと分かってくれるはずだから」
私は彼の背中を見つめ、立ち上がって一度も立ち止まることなくその場を離れた。
高見原への異動はなくなったが、この町にはもういたくない。
でも、飛行機のチケットならある。
颯、私はもうあなたを信じて待つことはない。