二十年遅れの「公平」なんて、もういらない

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二十年遅れの「公平」なんて、もういらない

GoodNovel 完結

私、御厨琴音(みくりや ことね)の家では、何より「公平」が重んじられている。双子の兄・御厨朔人(みくりや さくと)と姉・御厨彩葉(みくりや いろは)は、父と母が少しでもどちらかをひいきすると、すぐに張り合って喧嘩になるからだ。 そのため、家にあるものは何でもきっちり二人分。一つは兄へ、もう一つは姉へ。 幼いころ、何もわからず母に尋ねたことがある。「私の分は?」 返ってきたのは、怒鳴り声だった。「お兄ちゃんとお姉ちゃんだけでも大変なの!琴音まで面倒を増やさないでよ!」 やがて、家の車は7人乗りのミニバンに買い替えられた。家族は5人。 家族旅行に出かける日、空いた二席のうち、一つには姉の猫を入れたキャリー、もう一つには兄の犬。私は乗る場所もなく、雨の中、開いたドアの前に立ち尽くしていた。 兄は私を見るなり、犬をかばうように腕を回した。姉はあからさまに嫌そうな顔をする。「公平にするって決めたでしょ。誰も私の猫の席、取らないでよ」 父はまだ雨に濡れている私を、苛立たしげに見た。「琴音、何かほかに予定ないのか?」 寒さに震えながら、それでも私は笑って答えた。「あるよ。だから、私、行かない」 その場を離れた私は、大学の留学担当に海外交換留学の申請書を提出した。 20年待っても、私だけには一度も回ってこなかった「公平」もう、ここに立ち止まって待ち続ける必要はない。

チャプター (1)

第1章

私、御厨琴音(みくりや ことね)の家では、何より「公平」が重んじられている。双子の兄・御厨朔人(みくりや さくと)と姉・御厨彩葉(みくりや いろは)は、父と母が少しでもどちらかをひいきすると、すぐに張り合って喧嘩になるからだ。 そのため、家にあるものは何でもきっちり二人分。一つは兄へ、もう一つは姉へ。 幼いころ、何もわからず母に尋ねたことがある。「私の分は?」 返ってきたのは、怒鳴り声だった。「お兄ちゃんとお姉ちゃんだけでも大変なの!琴音まで面倒を増やさないでよ!」 やがて、家の車は7人乗りのミニバンに買い替えられた。家族は5人。 家族旅行に出かける日、空いた二席のうち、一つには姉の猫を入れたキャリー、もう一つには兄の犬。私は乗る場所もなく、雨の中、開いたドアの前に立ち尽くしていた。 兄は私を見るなり、犬をかばうように腕を回した。姉はあからさまに嫌そうな顔をする。「公平にするって決めたでしょ。誰も私の猫の席、取らないでよ」 父はまだ雨に濡れている私を、苛立たしげに見た。「琴音、何かほかに予定ないのか?」 寒さに震えながら、それでも私は笑って答えた。「あるよ。だから、私、行かない」 その場を離れた私は、大学の留学担当に海外交換留学の申請書を提出した。 20年待っても、私だけには一度も回ってこなかった「公平」もう、ここに立ち止まって待ち続ける必要はない。 第1話 一人で家まで歩いて帰ったころには、服の中まで雨が染み込み、全身びしょ濡れになっていた。 玄関に入ったところで、スマホが震えた。 家族のLINEグループに、母から私宛てのメッセージが届いている。 『この数日、一人でご飯どうするの?』 珍しく、私のことを気にかけてくれた。 そう思っただけで、胸の奥がきゅっとして、目の奥まで熱くなった。 けれど、返事を打つより先に次のメッセージが届いた。 『冷蔵庫の中のものには手をつけないでね』 『あれはお兄ちゃんとお姉ちゃんの分だから。二人に同じだけ行き渡るように、ちゃんと分けてあるの』 『琴音が食べたら公平じゃなくなるでしょう』 胸に浮かんだばかりの温かさが、すっと消えた。 じゃあ、私の分は? そう打ちかけた指が止まった。 結局、その文は消して、短い返事だけ送った。 『わかった』 こんなことは、これまで何度もあった。 聞いたところで、誰も気に留めてくれない。 この家には、最初から私の分なんてない。 ずっと、それが当たり前だった。 スマホをしまい、何か食べられるものがないか家の中を探した。 見つかったのは、隅に置かれた箱の中の、賞味期限が切れて湿気た菓子パンだけだった。 寒さと空腹の中、どうにか眠りについた。 ところが真夜中、いきなり濡れた上着を頭に投げつけられ、はっと目を覚ました。 驚いて目を開けると、廊下には明かりがつき、リビングから騒がしい声が聞こえてきた。 父と母は、遠出しようとしたところで大雨になり、道路が通行止めになったと愚痴をこぼしていた。 入口には、姉が腕を組んで立っていた。 「何ぼーっとしてるの?これ見たら、洗ってってわかるでしょ」 上着には泥水が跳ねていた。 さっき頭に投げられたせいで、髪まで湿ってべたついていた。 眠くて、まぶたもまともに開けていられないまま、力の入らない声で頼んだ。 「お姉ちゃん、今日はもう寝かせて。明日の朝、起きたらすぐ洗うから」 姉はすぐに声を荒らげた。 「やりたくないならそう言えばいいじゃん。言い訳しないでよ!」 そこへ兄もやってきて、泥だらけのスニーカーを床に放った。 「彩葉のを洗うなら、俺のも洗えよ。さっさとやっとけ」 母は洗濯物を抱えたまま、私をちらりと見た。 そして眉をひそめる。 「うちは三人きょうだいなんだから、何でも公平にしないとだめでしょう。 お兄ちゃんとお姉ちゃんは朝からずっと出かけてて疲れてるの。琴音は家にいたんだから、洗濯くらいやってあげなさい」 家族全員から責めるような目を向けられているうちに、ふっと笑いたくなった。 この家の「公平」は、ずいぶん都合よくできているらしい。 何かを分けるときの「公平」は、兄と姉のためにある。 面倒を引き受けるときになって初めて、私も三人きょうだいの一人に数えられる。 もう何を言っても無駄だ。黙って泥だらけの服と靴を抱え、洗面所へ向かった。 全部洗い終わるまで、3、4時間かかった。 目の前が暗くなる。 空腹のせいで、低血糖を起こしかけているのがわかった。 壁に手をつきながらリビングへ行き、白湯を飲もうとした。 ちょうどそこへ、父が焼き鳥の袋を提げて帰ってきた。 私を見ると、父は反射的に袋を背中へ隠した。 それから、気まずそうに笑った。 「ちょうど四人分なんだ。琴音まで入れると量が半端になるし、お兄ちゃんとお姉ちゃんがまた揉めるだろ? 柿ピーならあるぞ。あの二人はいらないって言ってたから、琴音が食べればいい」 差し出された袋を見て、思わず笑った。 受け取らずに、静かに言った。 「お父さん。私、ピーナッツアレルギーだよ」 父の顔が、一瞬だけ固まった。 けれど、それだけだった。 姉に呼ばれるとすぐ返事をし、そのまま何事もなかったように私の横を通り過ぎていった。 その背中を見ながら、体の横に下ろした手をぎゅっと握った。 胸の奥がずきりと痛んだ。 それでも、もう泣く力さえ残っていなかった。 白湯を少しずつ飲み、ふらつきが治まるのを待ってから納戸へ戻った。 少しでも横になろうと、扉を開けた。 そこには、兄と姉が片づけていないキャリーケースや荷物が、部屋いっぱいに置かれていた。 第2話 荷物が多すぎて、床にはもう置き場所すら残っていなかった。 それでも入りきらなかったのか、姉の猫用トイレまで私の布団の上に置かれていた。 一瞬、頭の中が真っ白になった。 思わず振り返る。 リビングからは楽しそうな笑い声が聞こえていた。 ちょうど母と目が合った。 布団の上の猫用トイレも、どうしていいかわからず立ち尽くしている私も、見えていたはずだ。 けれど母は、ちらりと見ただけで視線を戻した。 こんなことは、今に始まったことじゃない。 昔は、私にも自分の部屋があった。 きっかけは、姉が「自分の部屋だけ兄より一畳くらい狭い」と泣いて騒いだことだった。 困った父と母は、私の部屋の半分を姉の服やバッグを置く場所にした。 それを知った兄は、何も言わなかった。 ただ、あからさまに機嫌を悪くしてドアを乱暴に閉め、その日は夜まで帰ってこなかった。 すると今度は、残った半分まで兄のゲームスペースになった。 私は自分の部屋を追い出され、冬は寒く、夏はひどく暑い納戸で寝起きするようになった。 外ではまだ雨が降っている。 窓枠から入った雨水が、窓辺にたまっていた。 たまった雨水を見ているうちに、ようやく気づいた。 この家で何かが足りなくなるたび、いつも押し出されるのは私だった。 前は自分の部屋。 今度は、眠る場所までなくなった。 私は扉を閉め、向こう側の笑い声を遮った。 その晩は眠れなかった。 そもそも、横になれる場所さえなかった。 翌朝早く、大学の留学担当者から電話があり、大学へ向かった。 「交換留学の学内選考、通りましたよ」 ずっと待っていた知らせだった。 けれど、まだ一つ手続きが残っていた。 「長期の海外留学なので、こちらの書類に保証人の署名が必要なんです。 ご家族には、もうお話しされていますか?」 服の裾をつまんでいた手に、力が入った。 それでも笑って答えた。 「大丈夫です。なんとかします」 書類を受け取って大学を出たところで、母と姉に鉢合わせた。 姉は目を真っ赤にして、母の腕にしがみついていた。 「お母さん、もうやだ。朔人はバスケの大会で優勝したのに、私だけ何もないんだよ? 何の賞もないなんて恥ずかしいし、不公平じゃん!」 母は何度も姉をなだめていた。 昔なら、その親しげな姿を見るだけで、羨ましくて仕方なかった。 けれど今は、もうほとんど何も感じなかった。 そのまま通り過ぎようとすると、母に手首をつかまれた。 「琴音、ちょうどよかった。 この前、デザインコンテストで最優秀賞を取ったって言ってたわよね? そのときにもらったトロフィーと副賞、お姉ちゃんに譲ってあげられない? 受賞した実績は琴音に残るでしょう。お姉ちゃんは今、自分だけ何もないって落ち込んでるんだから」 一瞬、何を言われたのかわからなかった。 「お母さん、あのコンテストのために私、ずっと……」 母は最後まで聞かずに遮った。 「大変だったのはわかってるわよ。でも、トロフィーを持ってたって仕方ないでしょう? お姉ちゃんにあげれば済む話じゃない。琴音だって、家の中がまた揉めるのは嫌でしょう?」 胸の奥から、悔しさと怒りが一気にこみ上げた。 家の平和は、いつも私が我慢しないと保てないの? じゃあ、私は? そう言いかけたとき、バッグの中の書類に指が触れた。 その瞬間、頭がすっと冷えた。 「わかった。トロフィーと副賞は渡す。 その代わり、これにサインして」 母は書類を受け取ると、内容を確かめることもなく、すぐ保証人欄に署名した。 交換留学の書類だとはっきり書かれているのに、目を通そうともしなかった。 署名を終えると、すぐ姉に向き直る。 「ほら、もう泣かなくていいでしょう?琴音が譲ってくれるって」 姉はすぐに笑顔になった。 立ち去るとき、私の肩にぶつかる。 そして振り返り、不満そうに言った。 「最初からそう言ってくれればよかったのに。 こっちはずっと泣いてたんだから」 姉にとっては、それが当たり前なのだ。 この家では昔から、何かを分けるときに用意されるのは兄と姉の二人分だったから。 私は何も言わず、署名の入った書類を胸に抱えた。 これで、ここを出ていける。 そう思うと、ようやく息ができた気がした。 第3話 姉はトロフィーと副賞を受け取ると、すぐに写真を撮ってインスタに載せた。 すると兄も張り合い始め、バスケの大会で優勝した自分のことも祝ってほしいと言い出した。 結局、父と母は二人まとめてお祝いの食事会を開くことになった。 その食事会に選ばれたのは、本来なら私の誕生日を祝うはずだった日だった。 20歳の誕生日は、一度しかない。 半年以上前から楽しみにして、家族全員がその日を空けられることまで確認していた。 積み重ねてきた期待が、一気にばかばかしく思えた。 ホテルの宴会場で、父と母は珍しくやさしい声で私をなだめた。 「誕生日は別の日でも祝えるでしょう。 お兄ちゃんとお姉ちゃんは昔から何でも張り合うんだから、今日は譲ってあげて」 私はぎこちなく笑った。 これが、この家で祝ってもらえる最後の誕生日になるかもしれない。 その言葉は飲み込んだ。 しばらくして、ケーキが運ばれてきた。 兄と姉は並んでケーキの前に立ち、得意そうに笑っていた。 親戚の一人が冗談めかして言う。 「そういえば、琴音ちゃんも今日が誕生日でしょう? 三人のお祝いなら、ケーキ一つじゃ足りないんじゃない?」 そのときには、父はもうケーキを二人分に切り分けていた。 こちらを振り返り、気まずそうに笑う。 「三人分に分けるのは難しいから、琴音の分はまた今度な」 また今度。 子どものころから、何度聞いてきただろう。 父と母の気持ちは、いつも兄と姉にばかり向いていた。 私の番は、どれだけ待っても回ってこなかった。 母は私が機嫌を悪くして場を乱すのを気にしたのか、私だけを端へ呼び、手伝うよう言いつけた。 そのあとは、食事会の間じゅう、ホテルのスタッフのように動き回った。 ようやく少し休もうとしたとき、母と父方の叔母の話し声が聞こえてきた。 「上の双子がかわいくて、愛嬌があるのはわかるけど、琴音ちゃんだってずっと手のかからない子でしょう。 あの二人ばかり可愛がるのは、さすがにかわいそうよ」 気にしないと決めていたのに、思わず足を止めた。 しばらくして、母の声が聞こえる。 「あなたにはわからないわよ。あの双子は私たちにとって特別なの。琴音とは……やっぱり違うのよ。 それに、あの子は昔から何を考えてるのかわからないでしょう?いつも黙ってるし、笑いもしないし……正直、かわいいと思えないのよね」 ぼんやりしていたせいで、手元が滑った。 ポットから熱いお湯がこぼれ、手の甲にかかった。 手の甲は熱を持って痛んだ。それでも、母の言葉のほうがずっとつらかった。 そのとき、祖母が私の手を取った。 そして、自分の手首につけていた真珠のブレスレットを外し、私の手のひらにのせる。 「琴音、今日は20歳の誕生日でしょう? お誕生日、おめでとう。 たいしたものじゃないんだけどね。もう10年以上、大事につけてきたものなの。よかったら、誕生日のプレゼントにもらってくれる?」 高価なものではない。 それでも、祖母が長い間大切にしてきたものだとわかった。 祖母が私に贈ってくれた、何より大切なものだった。 涙があふれた。 お礼を言おうとしても、声は震えて、うまく言葉にならなかった。 周りには親戚がいて、父と母もときどきこちらを見ている。 大声で泣くこともできなかった。 私は祖母を抱きしめて、何とかお礼を言った。それから化粧室へ行き、気持ちを落ち着けた。 しばらくして会場へ戻ると、バッグに入れていたブレスレットがなくなっていた。 慌てて見回す。 最後に目に入ったのは、姉の手首だった。 そこには、さっき祖母にもらった真珠のブレスレットがあった。 第4話 気づいたときには、姉のもとへ駆け寄っていた。 親戚たちが驚いて見ている中、姉の前に手を差し出す。 「返して」 姉は一瞬ばつの悪そうな顔をし、すぐ母の後ろに隠れた。 父が不満そうにこちらをにらんだ。 「何騒いでるんだ」 私は父を無視し、姉だけを見た。 目の奥が熱くなった。 「返してって言ってるの!」 姉はブレスレットをつけた手を後ろに隠した。 「なんでおばあちゃんは琴音にだけあげるの?私にはないなんて不公平じゃん。 私だって公平にしてほしいだけだよ」 怒りで声が震えた。 「公平? 小さいころから、親戚からお年玉やお祝いをもらうときだって、用意されるのはお姉ちゃんとお兄ちゃんの二人分だった。 私だけにもらったものなんて、今までこのブレスレット一つしかない。 それでも不公平なの?」 姉は言い返せず、顔を赤くして目に涙をためた。 そこへ兄がやってきた。 姉の手首からブレスレットを外すと、そのまま床へ叩きつけた。 糸が切れ、真珠が床に散らばった。 散らばった真珠を、呆然と見つめた。 兄は嫌そうに私を見て、冷たい声で言う。 「ほら、これで三人ともなしだ。 満足だろ」 次の瞬間、母に強く頬を叩かれた。 「いい加減にしなさい!」 よろけながら頬を押さえ、信じられない思いで母を見る。 母の顔には怒りと失望が浮かび、その目はひどく冷たかった。 人前で私を叩いたことが気まずかったのか、今度は祖母へ怒りを向ける。 「お母さん、前にも言ったでしょう! うちの子たちのことに、勝手に口を出さないでって!」 祖母は青ざめ、ふらりとよろめいた。 まるで自分が悪いことをしたみたいに、何も言わずうつむいた。 頬も胸の奥も痛くて、何も考えられなかった。 しばらくして、やっと声が出た。 「おばあちゃんを責めないで。 私が悪かったんだよ。欲しがったり、取り返そうとしたりしなきゃよかった。 もう、何も欲しがらないし、取り合ったりもしないから」 父と母に向かって笑ってみせた。それでも、涙は止まらなかった。 涙が叩かれた頬を伝うたび、ひりひりと痛んだ。 私はホテルのスタッフからほうきとちり取りを借り、床に散らばった真珠を一粒ずつ拾った。 切れた糸や留め具と一緒に、ハンカチに包んだ。 真珠を拾っている間、父が母に小声で尋ねた。 「席、一つ足りないみたいだけど……椅子を追加してもらうか?」 母は声を荒らげた。 「一つ足りないなら、琴音を帰らせればいいでしょ! せっかくのお祝いをこんな空気にしておいて、まだここにいるつもり?」 親戚たちの視線が、一斉にこちらへ集まった。 それでも、もう涙は出なかった。 真珠を包んだハンカチを握りしめ、そのまま会場を出た。 家に戻ると、急いで自分の荷物をまとめた。 交換留学の渡航準備は、すでにほとんど済んでいた。 大学の留学担当者に相談し、緊急貸付制度の手続きを手伝ってもらって、その日のうちに取れるいちばん早い便を押さえた。 スーツケースを引いて空港に着いたころ、留学担当者から電話がかかってきた。 「琴音さん、何かあったんですか? ご家族にこちらから連絡しましょうか?」 小さく笑って答えた。 「大丈夫です。連絡しなくていいです。 もう、私には帰る家がないので」 電話を切ると、搭乗開始のアナウンスが流れた。 真珠を包んだハンカチを胸元で握りしめ、振り返らずに搭乗口へ向かった。

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